佐藤美鈴

東日本大震災後に注目された童謡詩人の金子みすゞが、いまも根強い人気を保っている。大災害に直面して初めて、多くの人が気づいた日常の尊さ。昭和初期に20代の若さで逝った詩人はとうの昔から、その輝きをしなやかに、軽やかに言葉に紡いでいた。 … 「雀(すずめ)のかあさん」では、子スズメを捕まえた子どもの母親は笑って見ているが、母スズメは鳴かずに様子を見ていた、と動物の視点を強調。別の詩では「きのふは子供をころばせて けふはお馬をつまづかす」と石ころにもなり、人と自然との距離を相対化させる。 こうした人間中心ではない世界観は仏教の教えに重なり合う、と震災前からみすゞの詩を講演会で紹介し続ける群馬県東吾妻町の僧侶酒井大岳さんは指摘する。「彼女は人が自然の中で生き、生かされていることを軽やかにうたう。モノやお金では満たされないうつろさに覆われる日本で、信仰のように心のよりどころとなっているのかも知れません」